「私が見た京劇の魅力について」 (4/5) 田村容子
唱(チャン)・念(ニェン)・做(ツオ)・打(ダー)(四つの演技の型)
次に、俳優の演技の型について説明します。俳優の演技は、主に四つの要素でできていて、一つ目は唱、これはうたで感情を歌い上げることです。歌詞の意味はわからなくても、俳優がうたを歌い出したら、自分の心情を表現している場面であることが多いので、悲しい感情や誇らしげな感情など、その役の感情を想像して聞いてみてください。
二つ目は念、これはせりふです。京劇で使われているせりふには韻をふんだ韻文と、現在の北京語に近いものとあり、役によってその口調が違います。韻文のほうは古語のようなもので、中国人でも聞いてわからないという人が多いです。
三つ目は做、これはしぐさの演技で、戸を開ける、歩くといったパントマイム的なわかりやすいものや、舞踊のように抽象化された動きも含まれます。
四つ目は打、これはたちまわりで、京劇の見どころの一つであるアクロバット的な演技です。宙返りのように、派手で見ているだけで楽しい場面です。
今回の福井に来る演目は、しぐさやたちまわりといった、目に訴える要素の多いものです。従って、言葉のわからない日本人が見ても十分楽しめるのですが、せっかくの機会ですから、せりふやうたの場面にも注目して、美しい音の響きにも耳を傾けてみてください。
行(ハン)当(ダン)(役柄類型)
京劇では役柄が大きく四つに類型化されており、一人の俳優は必ずそのどれかを専門とすることになっています。この役の分類、つまりどういう人物がどの分類かということを頭に入れておけば、観客はその人物が出てきただけで、人物の性格がわかるようになっています。
一つ目は生(ション)、これは一般的な男性役です。
生はさらに細かく分かれるのですが、代表的なものに老生(ラオション)があります。これは成人した男性を表しており、必ずひげをつけています。ひげの色が黒・白・灰と色々あり、色によって年齢を表します。うたうときは必ず地声でうたいます。
もう一つ、小生(シャオション)というのがあり、こちらは青年の男性です。ひげがなく、性格的にも未熟で、女性との恋物語を演じるのはつねに小生の役どころです。こちらは若いということを表すために、地声と裏声を半々に使います。
二つ目は旦(タン)、これは女性役全般です。
旦もさらに細かく分けることができ、代表的なものに、青(チン)衣(イー)といわれるうた・せりふ中心の貞淑な女性役があります。それから、武
(ウー)旦(タン)、これは扈三娘のようなたちまわり中心の役柄で、男まさりの女丈夫や、女武将の役です。また、花(ホア)旦(タン)というのは、しぐ
さ・せりふを中心にした、快活でお転婆な女の子の役です。京劇に出てくる深窓の令嬢は青衣で、その活発な小間使いはこの花旦の役です。
三つ目は浄(ジン)、これは隈取りをした男性役で、隈取りは激しい気性や、どこか人間離れしたオーラを表すものです。
隈取りには色々な色が使われており、その色によって性格が分けられます。赤は、義侠心を表します。『三国志演義』の関羽などがその典型です。白
は、狡猾で猜疑心が強い、敵役に使われる色です。『三国志演義』でいえば、曹操が典型です。黒は、正義感が強い人物です。「包公(バオコン)」という中国
の有名な裁判官がいますが、日本でいう大岡越前のような名裁判官のこの人が、典型的な人物です。なお、『覇王別姫』の項羽も黒が中心の隈取りですが、項羽
の隈取りは泣いた顔のように見える「哭臉(クーリェン)」という特殊な隈取りです。金は、人間でない神様・仙人・妖怪などに使われる色です。
四つ目は丑(チョウ)、これは道化役です。
道化役は大きく二つに分けられ、一つは武(ウー)丑(チョウ)、これはたちまわりを得意とし、義賊などの役が多いです。もう一つは文(ウェン)丑(チョウ)、これはせりふや滑稽なしぐさで笑いをとり、小役人などの役が多いです。
ここまでで、簡単な京劇のきまりごとを説明しましたので、京劇を見るときに少し思い出しながら見ていただけると、いっそう楽しめるのではないかと思います。
(5へ続く)
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