覇王別姫(はおうべっき)
2つ目の話「覇王別姫」(はおうべっき)は、これも有名な中国の史書「史記」(しき)の中のひとつの話です。
この京劇を背景にした香港・中国合作映画「さらば、この愛/覇王別姫」(1993年、陳凱歌(チェン・カイコー)監督)はカンヌ映画祭で最高賞のパルム・ドールを受賞し、張國榮(レスリー・チャン)、張豊毅(チャン・フォンイー)、鞏俐(コン・リー)などを有名にしました。この映画を見られて、京劇に興味を持った方の多いです。
今年(2008年)3月、「さらばこの愛/覇王別姫」が舞台化され、東山紀之が女形を演じ、話題になりました。
話は、紀元前3世紀の末。日本では弥生時代の頃です。中国では、秦(しん)の時代末期。秦の始皇帝が亡くなった後、各地で反乱がおこり戦乱の世になりました。
楚(そ)の国の英雄・項羽(こうう)は「覇王」(はおう)と呼ばれていました。敵対するのは漢(かん)の劉邦(りゅうほう)。紀元前202年、垓下の戦い(がいかのたたかい)において、漢の軍30万によって、楚の軍勢10万は敗退し、丘の上に包囲されてしまいました。
ある夜、敵である漢の陣地から、楚の歌が聞こえてきました。項羽は故郷がすでに占領されたと思い絶望します。これが「四面楚歌」(しめんそか)の故事です。
項羽は、妻の虞美人(ぐびじん)(=虞姫(ぐき))との別れが近づいていることと覚悟します。
虞美人(虞姫)を蘇卓(SU ZHUO:スー・ヂュオ)さん、項羽を焦健琪(JIAO JIAN QI:ジャオ・ジィェン・チー)さんが演じます。
+ 【 ここをクリックすると、日本語訳(抜粋)を表示します。】
最初にカーテンの後ろから歌が聞こえてきます。歌が終わると、項羽と虞美人が登場します。
「覇王別姫(はおうべっき)」
田園まさに蕪(あ)れなんとす、帰りなんいざ
千里の従軍は、そもそも誰がためぞ?
戦場の勇者は命を惜しまぬ
十年も戦って幾人(いくひと)か帰る?
項羽 「おお妃よ! 四方から聞こえてくるのは、わが故郷の楚の歌声。劉邦めは、すでにわが故郷を攻め落としたらしい。おそらくは今日、余とそな たの、今生の別れぞ。」
虞美人 「大王様……」
項羽 「ああ、思えばこの項羽は…!」
項羽の歌
力は山を抜き、気は世をおおう
時に利あらず、騅(すい)逝かず。
騅の逝かざるをいかんとすべき?
虞や、虞や、なんじをいかんせん!
この詩は、項羽が実際に歌ったと伝えられる有名な詩です。項羽は自分のことより、愛する虞美人の行く末が心配でならないと、その気持ちを歌ったのでした。私が見た京劇の魅力について (5/5) 田村容子 第一回京劇講座には、原文つきで解説があります。
虞美人 「おお、大王様、勝つ時もあれば負ける時もあるのは、兵家の常でござい ます。気にかけるには及びませぬ。お慰みに、わらわが一曲、剣舞を披露いた そうと思いまするが、いかがでしょう?」
項羽 「ならば頼もう。」
虞美人はマントの衣装を脱ぎ、2本の剣を使って剣舞(けんまい)を踊ります。
虞美人の歌
大王様、お酒をお飲みになりつつ、私の歌をお聴き下さい お心を晴らすために、舞をいたしまする。
秦の始皇帝の無道な政治は天下を破壊し、各地の英雄たちは立ち上がり、乱世となりました。
長い歴史の中では、英雄の興亡、成功も失敗も一瞬にすぎません。
心をくつろげてごゆるりとお酒をお楽しみください
項羽 「アー!ハハハ……!」
【テントの外で、突撃を告げる太鼓が鳴り渡る。】
項羽 「妃よ! 敵が四方から総攻撃をかけてきた。早く余とともに包囲を突破 して逃げるのじゃ!」
虞美人 「大王様!」
虞美人の歌
漢の兵はすでに大地を埋め尽くし、四方はみな楚歌の声。
大王様の足手まといにならぬよう、わらわは命を捨てましょう。
虞美人は自分がいては足手まといになって逃げられないと思い、項羽の宝剣で自害しようしますが、項羽は止めます。虞美人は、「漢の兵隊が攻めこんできました!」と項羽に叫び、項羽の気をそらしたとたん、項羽の腰から剣を抜き、自らを切りつけます。
虞美人は倒れこみ、項羽は抱きしめます。
-> (美猴王・鬧龍宮(びこうおう・とうりゅうぐう))を読む)
-> (扈家荘(こかそう)を読む)
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